前編では、母Mさんの相続で、通帳に残る多額の出金履歴をきっかけに兄妹が対立したケースを紹介しました。出金がある=即「使い込み」とは限らず、争点は 「誰のために、何に使ったのか」 を説明できるかどうか、という点でした。
中編では、長男Aさんが「母に頼まれて引き出した。介護費や生活費に使った」と主張する場面で、何をどう確認し、話し合いにどう落とし込むかを整理します。
Aさんの言い分が本当かどうかを判断するには、感情ではなく“材料”が必要です。確認ポイントは大きく3つです。
① 使途の裏付け
介護サービスの明細、医療費の領収書、施設費用、日用品購入など、支出の根拠がどこまで出せるか。完璧でなくても、一定の整合性があれば評価は変わります。
② 引き出し方の不自然さ
毎月決まった額なのか、死亡直前に集中していないか、明らかに生活費の範囲を超えていないか。時系列で並べると“説明が必要な山”が見えてきます。
③ 本人意思の手がかり
委任状がなくても、家計管理を任せていた事情、同居状況、介護の役割分担、メモやLINE、第三者(ケアマネ等)の認識など、本人の意思を推測できる事情を集めます。
介護を担ってきた人は、立替や現金支出が多く、領収書が残っていないことも珍しくありません。
その結果、真面目に介護していても「証拠がない=使い込み」と疑われ、深く傷つくことがあります。
そこで重要なのは、“完璧な証明”を求めない代わりに、一定の説明責任を果たすという落としどころです。
例えば、出金のうち「明確に説明できる部分」と「説明が弱い部分」を分け、弱い部分は相続分の調整(特別受益・寄与分的な整理を含む)として協議の俎上に載せる、という発想です。
兄妹の協議が止まる典型は、
「使い込みだ/違う」の応酬だけで終わってしまうことです。
そこで当事務所では、次の順で論点を分けることを提案しました。
この順番にすると、感情で殴り合うのではなく、“合意できるところから積み上げる”協議になります。
・確認は「使途」「不自然さ」「本人意思」の3点
・介護側は証拠が残りにくい。完璧を求めず線引きする
・「事実整理→説明→解決策」の順で論点を分けると前に進む
次回(後編)では、説明がつかない出金が残った場合に、遺産分割でどう処理するか(返還請求・調整の実務、第三者の関与)を解説します。