前編では、相続財産は最初から特定の一人のものではなく、まずは相続人全員に関わる財産として扱われるため、「相続人全員の協力が必要です」という一言が実務上とても重い意味を持つことを整理しました。
では、実際にはどのような場面で、その重さが表れやすいのでしょうか。
中編では、現場で多い典型例を整理します。
最も多いのは、遺産分割協議書の署名押印が、相続人のうち一人だけ進まないケースです。
他の相続人は内容に納得していても、最後の一人が
「まだ内容を十分に見ていない」
「少し確認したい」
という状態だと、そこから先に進めません。
相続では、全員の署名押印がそろって初めて協議書が実務で使える形になります。
そのため、一人の確認待ちが、そのまま全体の停滞になります。
内容面の対立がなくても、確認の遅れだけで止まるのが実務の難しさです。
内容には異論がなくても、印鑑証明書の取得が遅れて止まることもよくあります。
実印を押してもらえても、それに対応する印鑑証明書がなければ、金融機関や法務局では進めにくいことがあります。
しかも、相続人本人から見ると
「後で取ればいいだろう」
と軽く見られやすく、最後まで残りやすい書類でもあります。
相続人の中に遠方の方や疎遠な方がいる場合は、単に書類を送るだけでは進まないことがあります。
誰が亡くなったのか、どの財産について何をお願いしているのか、なぜ署名押印や印鑑証明書が必要なのか。
こうした説明を一つ一つ重ねないと、不安や警戒感から動きが止まりやすくなります。
内容そのものより、説明の入口を作ることに時間がかかる。
これも「全員の協力」の重さの一つです。
ご家族の中で一人が代表して動いている場合でも、最終的な払戻しや名義変更では、全員の意思確認に戻ることが少なくありません。
そのため、途中まで代表者だけで進められているように見えても、最後の場面で
「ここからは全員分が必要です」
となり、急に手続きが重く感じられることがあります。
この切り替わりが、実務では想像以上に負担になります。
・遺産分割協議書は一人の署名押印待ちでも止まる
・印鑑証明書1通の不足でも全体が進みにくくなる
・遠方や疎遠な相続人には説明の段階から時間がかかる
・代表者が動いていても、最後は全員確認が必要になることが多い
「相続人全員の協力が必要です」という言葉の重さは、誰かが反対しているときだけに表れるものではありません。
実務では、一人の確認待ち、一通の不足、一本の連絡の難しさが、そのまま全体の停滞につながります。
次回の後編では、こうした停滞を防ぐために、全員の協力が必要な相続を実務でどう整理して進めるべきかを見ていきます。
・戸籍収集など相続手続きの初動支援
・相続人調査、相続関係説明図の作成
・相続人全員との調整を見据えた書類整理支援
・遺産分割協議書作成支援
・必要に応じた司法書士、税理士等との連携