前編では、銀行の相続手続きでは、窓口で「書類は揃っています」と言われても、それだけで払戻しや解約が確定するわけではなく、銀行内部で相続関係や書類内容の整合が確認されるため、後から追加確認が入ることがあると整理しました。
では、実際にはどのような点で銀行手続きが止まりやすいのでしょうか。
中編では、現場で特に多い典型例を整理します。
まず多いのが、戸籍自体は一応そろっているのに、相続関係の流れが分かりにくく、銀行側で判断しにくいケースです。
たとえば、転籍が多い、改製原戸籍が途中に入る、前婚の子や代襲相続が絡む、といった場合です。
相続人側としては
「必要な戸籍は全部出した」
という感覚でも、銀行側からすると
「本当に相続人がこれで全員なのか」
を慎重に確認しなければならない場面があります。
つまり、戸籍があることと、その内容で相続人の範囲を読み切れることは別問題なのです。
次によくあるのが、遺産分割協議書はあるものの、その記載が銀行の払戻し手続に十分対応していないケースです。
たとえば、
「預貯金は長男が取得する」
という程度の記載しかなく、金融機関名や支店名、口座の特定が不十分な場合があります。
また、複数口座があるのに一部しか書かれていない、表現が曖昧で対象範囲が分かりにくい、といったこともあります。
相続人同士では意味が通じていても、銀行としては
「どの口座について、誰に払戻してよいのか」
を明確に確認できなければ進めにくくなります。
銀行手続では、相続人全員の意思確認が非常に重く見られます。
そのため、署名押印の形式や印鑑証明書との整合で止まることも少なくありません。
たとえば、協議書の氏名表記と印鑑証明書の表記が一致しない、押印が実印でない、印影が不鮮明、といった場合です。
内容に争いがなくても、
「本当に本人が合意したのか」
が確認しにくいと、銀行は慎重になります。
さらに実務で戸惑いやすいのが、銀行ごとに確認の仕方や必要書類の感覚が少しずつ違うことです。
ある銀行では通った書類でも、別の銀行では補足資料を求められることがあります。
相続人としては
「他では大丈夫だったのに」
と感じやすいのですが、銀行ごとに内部運用や審査基準が異なる以上、一定の差は起こり得ます。
このため、相続手続は
「一つ通ったから全部同じ」
とは限らない、という前提で進める必要があります。
・戸籍があっても相続関係のつながりが読みにくいと止まりやすい
・遺産分割協議書の記載が銀行手続向きでないことがある
・署名押印や印鑑証明書との整合でも確認が入る
・銀行ごとの運用差で追加資料を求められることがある
銀行の相続手続きが止まりやすいのは、書類がないからというより、提出された書類で銀行が安全に払戻し判断をできるかどうかが見られているからです。
次回の後編では、こうした差戻しや停滞を防ぐために、銀行提出前にどのような点を整理しておくべきかを見ていきます。
・戸籍収集など相続手続きの初動支援
・相続人調査、相続関係説明図の作成
・遺産分割協議書作成支援
・銀行提出書類の事前整理と確認支援
・必要に応じた司法書士、税理士等との連携