相続では、亡くなる直前に行われた財産処分が、大きな争点になることがあります。
たとえば、死亡の少し前に多額の預金が引き出されていた、不動産が急に売却されていた、特定の親族にまとまった送金がされていた、といった場面です。
こうした事実が見つかると、他の相続人からは
「本人の本当の意思だったのか」
「判断能力はあったのか」
「誰かが勝手に動かしたのではないか」
という疑念が生まれやすくなります。
今回は前編として、死亡直前の財産処分が、なぜ相続で深刻な争いになりやすいのか、その基本的な構図を整理します。
まず押さえておきたいのは、亡くなる直前に行われた財産処分だからといって、それだけで当然に無効になるわけではないという点です。
たとえ病気が進んでいたとしても、本人に判断能力があり、自分の意思で処分していたのであれば、その行為は有効と評価される可能性があります。
一方で、重い認知症や意識障害があり、自分で内容を理解して判断できる状態ではなかった場合には、その処分の有効性が強く問題になります。
つまり、争点になるのは
「亡くなる直前だったこと」
そのものではなく、
「その時点で本人がどのような状態にあり、どのような経緯で処分が行われたのか」
なのです。
死亡直前の財産処分が厄介なのは、その場に居合わせた人と、そうでない人との間で、見えている情報に差があることです。
たとえば、同居していた家族は
「本人が望んでいた」
と説明するかもしれません。
しかし、離れて暮らしていた相続人からすると、突然預金が減っていたり、不動産の名義が変わっていたりすれば、
「本当に本人の意思だったのか」
と疑いたくなるのは自然です。
相続では、内容そのものだけでなく、経緯が見えにくいことが不信感を生みます。死亡直前の財産処分は、その典型です。
こうした場面で大切なのは、
「亡くなる直前だから怪しい」
と短絡的に決めつけないことです。
本当に見るべきなのは、処分当時の本人の判断能力、処分の目的、手続の流れ、誰が関与していたのか、記録が残っているのか、といった具体的な事情です。
さらに、死亡直前の財産処分は、法律上の有効・無効だけでなく、家族間の公平感や信頼関係にも直結します。
だからこそ、疑いが強い場面ほど、感情だけでなく事実を丁寧に確認する姿勢が重要になります。
・死亡直前の財産処分でも直ちに無効とは限らない
・問題になるのは本人の判断能力や処分の経緯である
・見えにくい処分ほど相続人間の不信感を生みやすい
・時期だけでなく具体的事情を丁寧に確認することが重要
死亡直前の財産処分は、「怪しいかどうか」という印象だけで語ると、相続全体をこじらせやすいテーマです。
次回の中編では、どのような事情があると有効性に疑問が生じやすいのか、実務上の判断ポイントを整理します。
・戸籍収集など相続手続きの初動支援
・相続人調査、相続関係説明図の作成
・遺産分割協議書作成支援
・死亡直前の財産移動を含む相続関係全体の整理
・必要に応じた弁護士、税理士等との連携