前編では、生前の肩代わり金が相続で特別受益として問題になり得ること、中編では、金額、継続性、目的、証拠の有無などによって評価が分かれやすいことを見てきました。
では、こうした争いを防ぐには、どのような備えが必要なのでしょうか。
後編では、生前の肩代わり金をめぐる相続トラブルを防ぐための実務上の注意点を整理します。
生前の肩代わり金で揉めやすい大きな理由は、そのお金の性質が曖昧なままになっていることです。
親としては
「一時的に立て替えただけ」
と思っていても、子としては
「返さなくてよい援助だった」
と受け止めていることがあります。
逆に、親子の間では黙示的に贈与のつもりでも、他の相続人から見ると「なぜその人だけ特別扱いなのか」という不満が残ります。
だからこそ、肩代わりをする段階で、それが返済を前提とする立替えなのか、生活支援としての援助なのかを、できるだけ明確にしておくことが大切です。
曖昧さを残したまま年月が過ぎるほど、相続開始後の整理は難しくなります。
実務上、とても大きいのが記録の有無です。
誰のために、いつ、いくら、何の目的で支払ったのか。
返済の予定があるのか、ないのか。
こうした点が記録されていれば、相続が始まった後も説明しやすくなります。
たとえば、通帳の記録、振込明細、メモ、家計簿、簡単な確認書などでも、後から見れば大きな意味を持つことがあります。
特に高額な肩代わりや、長期間にわたる支援については、何も残っていない状態が最も危険です。
相続では、「本当はこうだった」と後から口頭で説明しても、相続人全員が同じ記憶を持っているとは限りません。
だからこそ、生前の段階で見える形にしておくことが、争いの予防につながります。
肩代わり金の問題は、その支払いだけを単独で見ても解決しません。
たとえば、一人の子に住宅ローンの援助をしていたとしても、別の子には結婚資金や住宅取得資金を援助していたかもしれません。
あるいは、親と同居して介護を担っていた相続人がいて、別の形で家族内の負担調整がされていたこともあります。
そのため、争いを防ぐには、「誰にいくら払ったか」だけではなく、家族全体としてどのような援助や負担があったのかを見ながら整理することが大切です。
必要に応じて、遺言書や付言事項の中で考え方を示しておくことにも意味があります。
・肩代わり金は立替えか援助かを明確にしておくことが重要
・高額な支払いほど記録を残しておくことが大切
・通帳、振込記録、メモなどが後の説明資料になる
・肩代わり金だけでなく相続全体のバランスを見て整理する必要がある
生前の肩代わり金は、家族の善意から始まることが多い一方で、記録が曖昧なまま相続を迎えると、特別受益をめぐる大きな争点になりやすいテーマです。
相続対策は、財産をどう残すかだけでなく、生前のお金の流れをどう見える形にしておくかも重要だといえるでしょう。
・戸籍収集など相続手続きの初動支援
・相続人調査、相続関係説明図の作成
・遺産分割協議書作成支援
・生前贈与、肩代わり金を含む相続関係全体の整理
・遺言書作成に向けた整理、文案作成支援
・必要に応じた弁護士、税理士等との連携