「亡くなる直前、兄が母の預金を引き出していたらしい。」
相続の現場で、この相談は本当に多いテーマです。通帳の出金履歴を見つけた瞬間、家族の空気が一変します。今回は、生前の“使い込み”をめぐって兄妹が対立したケースをもとに、前編では「何が問題になり、どこから確認すべきか」を整理します。
被相続人は母Mさん。相続人は長男Aさん、長女Bさん、次女Cさんの3人です。
母の死後、遺産の整理を始めたBさんが通帳を確認すると、過去1〜2年の間に、数十万円単位の出金が繰り返されていました。合計すると数百万円。
Bさんは驚いてAさんに尋ねます。
Aさんはこう答えました。
「母の介護費や生活費に使った。頼まれて引き出しただけだ。」
しかしBさんは納得できません。
「領収書は?介護サービスの明細は?そもそも、どうしてあなたが暗証番号を知ってるの?」
Cさんも不安が募り、兄妹の話し合いは感情的になっていきます。
この手の対立で難しいのは、出金があった=即「不正」とは限らないことです。
生活費・医療費・介護費として本人のために使っていれば、問題にならない場合もあります。
一方で、本人のためと言いながら、実際には子の生活費や借金返済に充てていたとなれば、話は別です。
つまり争点はシンプルで、
「誰のために、何に使ったのか」
これを説明できるかどうかに尽きます。
この段階でいきなり「返せ」「泥棒だ」と責めると、相手は防御に回り、情報が出なくなります。
そこで、最初にやるべきは次の整理です。
Bさん・Cさんには、まず「疑う」よりも「並べる」ことを提案しました。数字と資料を並べると、感情が少し冷め、論点が見えます。
次回(中編)では、
・兄が「母に頼まれた」と言う場合、何をどう確認するか
・介護をしていた側の“立証”はどこまで必要か
・遺産分割の話し合いにどう組み込むか
を、実務的に解説します。