夫婦でマイホームを建てるとき、「せっかくだから二人の名前で」と共有名義にすることは珍しくありません。
登記簿上は夫婦それぞれが持分2分の1。数字だけ見ればとても公平に見えます。
しかし実際には、資金の負担割合やローンの返済、維持費の支出などが偏っていることが多く、相続の場面で思わぬトラブルを引き起こします。
「名義は半分でも、心は全額払っているつもりだった」——そう感じる方こそ、注意が必要です。
第4話では、共有名義が生む“見えない不公平”を、3回に分けて解説していきます。
主人公は、会社員のAさん(夫)と、パート勤務のBさん(妻)。
結婚10年目に念願のマイホームを購入し、登記は「夫婦それぞれ2分の1の共有」としました。
ただし、頭金もローンの返済も実際にはほとんどがAさんの収入から。Bさんは生活費を支える程度で、住宅ローンの名義人もAさんのみでした。
それでもAさんは「家は家族のためのもの。形式は関係ない」と考え、特にこだわりませんでした。
しかし、その平穏は、Aさんが病気で急逝した瞬間に崩れます。Bさんが「この家は自分のもの」と信じていた一方で、相続の仕組みは冷静に“登記”を基準に動き出したのです。
Aさんの遺産には、「Aさん持分の2分の1」が含まれます。
相続人は妻Bさんと2人の子どもたち。結果として、Aさんの持分2分の1を3人で分け合うことになります。
つまり、Bさんのもともとの2分の1に加えて、Aさんの相続分の一部を取得する形となり、最終的には「Bさんと子どもたちの共有状態」となります。
この時点でBさんは、自宅の“完全な所有者”ではなくなり、売却・担保設定・リフォームなどの手続きには、子どもたちの同意が必要となるのです。
「夫婦で共有のつもりが、相続でさらに複雑な共有になる」——これが、実務現場で最も多い“共有名義の罠”です。
共有名義は夫婦の信頼関係が前提にあるときは問題になりません。
しかし相続が始まると、感情よりも「登記上の権利」が優先されます。
Aさんが「自分が全額払った」と思っても、登記上は半分。
Bさんが「全部自分の家」と思っても、子どもたちは「自分たちにも相続権がある」と主張できます。
また、Aさんの両親が存命なら、法定相続人として登場する可能性もあります。
こうして“誰の家か”という感覚と、“誰の持分か”という法的現実が食い違い、家族間の信頼関係を傷つけることになるのです。
・夫婦・親子間の共有名義リスクの整理と、持分調整の助言
・実際の資金負担・ローン返済を反映した法的文書(契約書・合意書)の作成
・遺言書による「共有部分の承継指定」支援
・相続開始後の分割協議書・説明資料の作成
・司法書士・税理士との連携による名義変更・税務対応の一元支援
「登記の2分の1」は、あくまで形式にすぎません。
“気持ちの公平”を“法的な公平”に変える準備こそ、トラブルを防ぐ最大のカギです。
次回(第4話②・中編)では、Aさん亡き後、「住み続けたい妻」と「権利を主張する子どもたち」の思惑の違い、そして共有名義がもたらす現実的な衝突を取り上げます。