遺産分割の話し合いが進まない中、兄の健一さんは新たにこう言い出しました。
「この家は俺が自腹でリフォームしたんだ。だからこの家は実質、俺のもんだろ?」
確かに、父が存命中に水回りや屋根の修繕を行い、費用の一部は健一さんが支払っていました。
ただし、工事契約書は父名義で、領収書にも父の名前が記載されています。
「お金を出した人」と「名義上の所有者」が異なるこのようなケースは、実務上少なくありません。
不動産の所有権は登記名義によって判断されます。
リフォーム費用を負担したとしても、そのことだけで自動的に所有権が移るわけではありません。
たとえば、子が親の家を修繕した場合、それは贈与・出資・貸付のいずれかとして扱われます。
どの性質に当たるかは、工事当時の状況や意図、支出額、関係性など総合的に見て判断されます。
もし「親に代わって家を良くしたい」という気持ちから支出したのであれば、法的には“親への贈与”とみなされる可能性が高くなります。
一方、将来の相続を見越して「自分の持分を増やすための出資」という意図が明確であれば、契約書や合意書として残しておく必要があります。
兄のように、家の維持・改修に一定の費用を出してきた場合は、寄与分として評価できる余地があります。
ただし、寄与分が認められるためには、
・費用を出した目的(財産維持のためか、単なる好意か)
・支出額や期間の明確化
・工事契約書・領収書などの証拠
が必要です。
これらを裏づけとして主張すれば、遺産分割協議の中で「兄の寄与を考慮した上で、相続分を調整する」という解決も可能になります。
最終回となる後編では、相続人たちが専門家の助言を受けて冷静に話し合いを進め、「家をどう分けるか」を最終的に決めていく場面を描きます。
「住み続けたい人」と「現金を希望する人」――
双方が納得できる“落とし所”とはどのような形なのでしょうか。
当事務所では、
・不動産に関する寄与分・特別受益の整理
・工事やリフォーム費用の証拠整理支援
・公平な遺産分割協議書の作成
を行っております。
相続の背景には、家族の思い出や努力が詰まっています。
その「思い」を正しく形にすることこそ、当事務所の役割です。
どうぞお気軽にご相談ください。