これまで「相続コラム」では、制度や手続の基本を中心にお伝えしてきました。
新シリーズ「ケースで学ぶ相続」では、実際の現場で起こり得る“リアルなケース”を通して、感情と法律のはざまを読み解いていきます。
前回のコラム(第103話)では、母の死後に二通の遺言書が見つかり、兄弟の間で困惑が生じたケースを紹介しました。
今回はその続きとして、Aさん・Bさん兄弟がどのようにして「遺言の有効性」を確認し、最終的にどのような結末を迎えたのかを見ていきます。
まず、仏壇から見つかった自筆証書遺言については、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要です。
検認とは、遺言書が偽造・改ざんされていないかを形式的に確認するものであり、遺言の有効・無効を判断する場ではありません。
Aさんは家庭裁判所に申し立てを行い、封が開けられた自筆遺言の写しを受け取りました。
一方で、公正証書遺言は公証役場に原本が保管されているため、検認の必要はありません。
Bさんは母が利用した公証役場を訪ね、正式な写し(正本)を取得しました。
その結果、両者の遺言内容と日付の違いが明らかになったのです。
兄弟が最も悩んだのは、「母は本当に前の遺言を撤回したつもりだったのか?」という点でした。
公正証書遺言には「以前の遺言を撤回する」という文言が明示されていません。
しかし、公証人の面談記録には、母が「考えを改めて、二人の子に平等に分けたい」と話していた旨が残っていました。
家庭裁判所での調停の中で、
「後の日付の遺言に明確な意思があり、形式も整っている以上、公正証書遺言が有効」と判断されました。
Aさんも最終的には、「母の意思を尊重しよう」と受け入れ、兄弟間の争いは穏やかに終結しました。
このケースは、「遺言を複数作ること」そのものが問題なのではなく、本人の意思を明確に残すことの難しさを教えてくれます。
どんなに法律的に整った形式であっても、家族が「なぜそうしたのか」を理解していなければ、争いの火種になります。
一方で、後から修正したい場合は、古い遺言との関係をはっきりさせておくことが重要です。
特に、
● 遺言を作成・変更する際には、専門家に相談し、撤回条項を明記しておく
● 家族にも「なぜそう考えたのか」を伝えておく
この二点を押さえておくだけでも、後のトラブルは大幅に減らせます。
当事務所では、
・複数の遺言が存在する場合の法的整理と調査
・遺言内容の整合性確認、撤回条項の設計
・家庭裁判所での検認申立てサポート
・家族間の円満な話し合いのための調整・文書支援
など、実際のケースに即した支援を行っています。
「遺言の内容に不安がある」「親が複数の遺言を残していた」など、
不安を感じた段階からでもお気軽にご相談ください。
家族の信頼を守るために、“形式”と“気持ち”の両方に寄り添ったサポートをお約束します。