相続人がいない(または全員が相続放棄した)場合、そのままだと残った財産は国庫に帰属します。とはいえ、生前に被相続人を長年介護・看護した人や、財産の維持・増加に貢献した人、生活を共にした内縁配偶者や事実上の養親子などがいることも。
こうした「被相続人と特別の縁故がある人」に、残余財産の一部・全部を家庭裁判所の審判で分与できるのが、特別縁故者への分与(民法958条の3)です。
■ だれが対象になり得る?
条文では、①生計を同じくしていた者、②療養看護に努めた者、③財産の維持・増加に特別の寄与をした者、④その他事情により特別の縁故がある者、と幅広く定めています。
典型例は、内縁の配偶者、長年同居して世話をした親族・親族同様の人、介護・看護を担った人、寺社・施設・法人などが管理費を負担して守ってきたケース等。形式的な続柄よりも実質的な関わりが重視されます。
■ いつ・どう進む?(全体像)
- 相続財産管理人の選任(家庭裁判所)。
- 管理人が債権者・受遺者の公告・弁済、相続人捜索の公告を実施。
- それでも相続人が見つからないと、家庭裁判所が「特別縁故者は申し出を」と公告し、公告で定められた期間内に候補者が分与の申立てを行います。
- 裁判所が関係者の事情・貢献度・残余財産の規模等を総合考慮し、分与の有無・割合を決定。
- 決定後、名義変更・登記・払戻しなどの実務に移ります。
※申立書の作成・代理は弁護士の業務領域です。ご本人申立ての場合でも、要件事実の整理と証拠添付が鍵になります。
■ 証拠は“日常の記録”が効く
審理では、具体的な関与の内容と期間が問われます。次のような資料を時系列でそろえると説得力が高まります。
- 同居・生計同一の証拠(住民票の履歴、公共料金の支払状況、家計の送金記録 等)
- 介護・看護の証拠(介護記録、通院付き添いの領収書、ケアマネ・施設の意見書、日誌・写真)
- 財産維持の証拠(固定資産税・修繕費の立替領収、管理組合費の支払、空き家管理の報告 等)
- 被相続人の意思の推認資料(手紙・メモ・日記・近隣の陳述メモ)
■ よくあるポイント
- 必ず全額もらえる制度ではない:複数の候補がいれば按分され、事情に照らし不分与となることも。
- タイミングが重要:公告で定められた申出期間を逃すと、原則として国庫帰属に進みます。早めに管理人・裁判所の公告内容を確認しましょう。
- 税務の取扱い:特別縁故者が受ける分与は、相続税の対象となる取扱いが一般的です。評価・申告の要否は税理士に確認を。
- 登記・名義変更:不動産なら司法書士、有価証券や預貯金は金融機関所定書式での手続が必要です。
■ 小樽つちや行政書士事務所でできること
当事務所では、相続財産管理人選任の情報整理、公告の時期確認、関与の事実関係の棚卸し、証拠リスト化、陳述書草案・年表の作成支援、財産目録の整備を行います。法的申立て・代理は弁護士、登記は司法書士、税務は税理士と連携します。
被相続人を支え続けた実質的な関わりを丁寧に可視化し、申出期間内に必要書類を揃えられるよう伴走します。まずは「関わりの事実」を思い出せる範囲でメモにし、領収書や記録を集めるところから始めましょう。