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    ■「この家は俺のもの」から始まった行き違い

    お父様の四十九日が過ぎたころ、妹の美佐さん(50代)は兄の健一さん(長男)に遺産の話を切り出しました。
    ところが、返ってきたのは思いがけない一言でした。

    「この家は、もう俺のものだろ? ずっと親父と同居して面倒を見てきたんだ。」

    確かに兄夫婦は長年、両親と同居し、通院の送迎や冬の除雪なども担ってきました。
    固定資産税の一部や光熱費も負担していたそうです。
    しかし、登記名義は父の単独で、住宅ローンも父が完済していました。

    感謝の気持ちと、積み重ねた負担感。
    “同居してきた側の実感”と“制度上の現実”が、ここでぶつかり合うことになります。

    ■同居=自動的な所有ではありません

    相続が発生した時点で、被相続人名義の不動産は遺産としてすべての相続人の共有財産となります。
    長男が同居していた事実や、生活費を一部負担していたというだけで、家の所有権が自動的に移るわけではありません。

    「長年一緒に暮らしてきたのだから、家は長男に」という考え方は、法定相続分や登記のルールとは一致しない場合が多いのです。
    この段階で感情的なやり取りが続くと、話し合いはすぐに行き詰まってしまいます。

    まずは冷静に、名義・相続分・評価額を切り分けて確認することが大切です。

    ■貢献はどう報われるのか――寄与分という考え方

    同居や介護、家の維持への貢献がまったく評価されないわけではありません。
    ここで重要になるのが、「寄与分(きよぶん)」という制度です。

    寄与分とは、他の相続人に比べて特別に財産の維持や増加に貢献した場合に、その分を相続分に上乗せできる仕組みです。

    たとえば、長年にわたって介護を行い施設利用費を抑えた、あるいは建物の修繕にまとまった費用を出していた、といった場合が該当することがあります。

    ただし、寄与分を主張するには客観的な裏づけ資料が不可欠です。
    介護記録、領収書、工事契約書、通帳の動きなどを整理し、家族全員が納得できる形にしておくことが大切です。

    ■次回(中編)予告

    次回の中編では、兄の健一さんが主張する「リフォーム費用を自分が出した」という点を取り上げます。
    登記名義・実質的な費用負担・増改築の評価という3つの視点から、家の所有権と費用負担の関係をわかりやすく整理していきます。

    ■小樽つちや行政書士事務所でサポートできること

    当事務所では、
    ・相続人間での不動産の取り扱い相談
    ・寄与分や特別受益に関する意見書の作成
    ・遺産分割協議書の作成支援
    などを通じて、公平で円満な相続をサポートしております。

    「同居」「介護」「家の名義」といった感情の絡むテーマこそ、専門家の客観的な視点が役に立ちます。
    お気軽にご相談ください。


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