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    これまでの「相続コラム」では制度や手続きを中心にお伝えしてきました。
    今回からは、新シリーズ「ケースで学ぶ相続」として、実際の相談事例や、先輩行政書士の経験談、専門書などで紹介される典型的なケースをもとに、現場のリアルを再構成してお届けします。
    登場人物はすべて仮名ですが、そこに描かれる心の動きは、多くのご家庭で起こりうるものです。

    姉妹が向き合った「平等」の話し合い

    ある姉妹が、遺産分割の相談で専門家を訪れました。
    長女のAさん(50代)は、長年母親と同居し、父の介護や家の管理を担ってきました。
    一方、妹のBさん(40代後半)は札幌で家庭を持ち、仕事に追われながらも、父の死後は「きちんと話をつけなければ」と思っていました。

    「父は“子どもたちには平等に分けてやりたい”と言っていました。」
    Bさんがそう切り出すと、Aさんはうなずきながらも、どこか表情が硬い。
    実家の土地建物とわずかな預金。
    「平等に」と言っても、現金と家は性質がまったく異なります。

    Aさんは、母と一緒に暮らし続けたい。
    Bさんは、家を売るか、価値を計算して現金で清算したい。
    どちらも“正しい”主張です。
    しかし、その正しさが、次第に感情をこじらせていきました。

    “平等”が“公平”を曇らせるとき

    「お姉ちゃんが家をもらうなら、私は同じ金額の現金がほしい。」
    「でも、家の維持費も税金も私が払ってきたのよ。」
    姉妹の声は次第に強くなり、母親の話題を出すたびに、互いの思いがすれ違っていきました。

    Bさんは「都会で離れて暮らしていた負い目」があり、Aさんは「面倒を見てきた責任感と疲れ」がある。
    どちらも家族を思っての言葉なのに、“平等”という一語が二人の間に線を引いてしまったのです。

    話し合いの最後、Aさんがぽつりと漏らしました。
    「妹と争いたいわけじゃないんです。ただ、母が安心して暮らせるようにしたいだけで……。」
    その言葉に、Bさんも静かにうなずきました。
    「わかってる。でも、お金のことになると、どうしても感情が出てしまって。」

    相続は、“数字の話”であると同時に、“気持ちの話”でもあります。
    「平等」と「公平」の違いを理解しないまま話し合うと、
    本来守るべき家族の絆が、知らず知らずのうちにほどけていってしまうのです。

    ——次回②では、この姉妹のケースをもとに、
    “平等”と“公平”の違い、そして争いを防ぐための具体的な考え方を解説します。


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