■ 仮払い制度とは?
被相続人の預貯金口座は、金融機関への死亡の連絡後にいったん凍結されます。通常は相続人全員の同意(遺産分割)が整うまで払戻しできませんが、当面の費用(葬儀費・当座の生活費など)に充てられるよう、法律(民法第909条の2)と各金融機関の内規で「仮払い」が認められています。
ポイントは次の2つです。
- 民法の仮払い(法定相続分方式):相続人が単独で請求可。上限は
口座残高(死亡時)×各相続人の法定相続分×1/3、かつ150万円まで(※法令上の上限。実務は金融機関の運用により異なります)。
- 金融機関の任意仮払い:各金融機関の内規で、定額または必要性を確認して一定額を仮払。方式・限度額は銀行ごとに違います。
いずれも遺産分割前の“前渡し”なので、後で相続人の間で精算します。
■ 使える場面と注意
- 代表的な使い道:葬儀・火葬・納骨費用、当面の生活費、公共料金の清算など。使途証明を求められる銀行もあります。
- 対象資産:「預金・貯金(普通・定期)」が中心。証券口座や保険金は別の手続です。
- 複数行・複数口座がある場合、上限は口座ごと/銀行ごとの運用があるため、重複請求にならないようメモと台帳で管理を。
- 仮払いで出金した額は遺産から控除され、遺産分割時に清算します(領収書・使途メモは必ず保存)。
■ 申請に必要な主な書類(例)
- 金融機関所定の仮払請求書
- 法定相続情報一覧図(または戸籍一式)
- 被相続人の死亡日残高のわかる書類(銀行が内部確認することも)
- 相続人本人確認書類、印鑑(実印を求められることあり)
- 代表者が申請する場合:委任状(相続人全員分を要求する銀行も)
※求められる書類は金融機関ごとに異なります。まず各金融機関の相続担当窓口に必要書類リストを確認しましょう。
■ 進め方(かんたん手順)
- 口座一覧を作る(銀行名・支店・口座番号・概算残高)。
- 法定相続情報一覧図を取得(戸籍一式より簡便)。
- どの口座でいくら必要かを計算(法定相続分×1/3、かつ150万円上限を念頭に)。
- 銀行の相続受付窓口へ必要書類を提出。郵送で受ける銀行も多いです。
- 受領後は使途と領収書を整理し、精算表に記録。遺産分割協議で反映。
■ よくある疑問
- 複数の相続人が別々に請求できる?
→ 民法方式は各相続人が自分の法定相続分に応じて請求可能(ただし上限は150万円までの運用が一般的)。重複請求防止のため代表者を決めて一本化が無難です。
- 使途は葬儀費に限定?
→ 法律上は当面の必要費を想定。金融機関によっては領収書の提示や用途確認があります。
- 相続人の一人が反対している
→ 民法方式なら単独請求が可能な場合がありますが、トラブル防止のため事前共有を。
■ 小樽つちや行政書士事務所でできること
当事務所では、法定相続情報の取得支援、口座・必要費の整理、仮払請求書・委任状の作成支援、精算表テンプレートの提供を行います。銀行内規の確認や並行申請の段取りもお手伝い。登記は司法書士、税務判断は税理士と連携します。
「まず葬儀費だけでも用意したい」――そんな局面で役に立つ制度です。必要額・対象口座・必要書類を一緒に整理し、確実に、早く手続を進めましょう。